Monday, 12 October 2020

Story Papa Wonderful. RI Ko. 1999

 01  はじまり

 「すてきなおとうさん」田所弘平さんは実在の人ではありません。しかしいちばん近いモデルはというと、それは著者自身ということになります。
 ほんとうは架空の人として描きたかったのですが、そのような人として描ききる力が著者にはありませんでしたので、いちばん身近な著者自身をモデルにしてしまったのです。
 著者は1947年に東京の西郊に生まれ、そこで育ちました。ですからここに書かれていることは、著者が生きた時代にその時代の中で見た真実ということになるかもしれません。ひとりよがりや架空のことも含めて、ここに書かれていることは著者がこうありたいと心のどこかで願っていたことなのです。
 著者は小さいころ、姉が読んでいた少女雑誌の付録で、マンガの『若草物語』を読みました。その読後感はほんとうになんともいえないあたたかなものでした。なにしろ半世紀近くたった今になっても、そのいくつかの場面をはっきりとおぼえているくらいなのですから。この物語を読んでくださるあなたが、もしお子さんをお持ちのおとうさん・おかあさんでしたら、どうかマンガだといって、それだけでその作品を否定しないでください。すべては表現と感受の問題で、それが何によってなされるかではないからです。
 ですからこの物語は、半世紀を隔てて書かれた、少年時代に読んだマンガの『若草物語』へのひとつの頌歌、ほめうただと思ってくださってもかまいません。
 小説家、上林暁さんがかつて自らの文学的経歴を振り返りながら、実は『あしながおじさん』が大好きだったと述べておられるのを目にしたことがあります。この人にしてこのことばがと、なんだかほほえましく感じられました。
 文学に長じた上林さんには比すべくもありませんが、この本の著者もきっと、『若草物語』が著者のささやかな文学的営みの出発点をなしていたと思えるくらいには、自己を振り返れる年齢になったのかもしれません

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