Resting Elbows Nearly Prayer
RI Ko
2007
祈りに近くひじをついて
里行
2007年
1 丘陵
六月の丘陵はさわやかだった。吹き上げてくる風が強く頬を打っても、もう冷たさはなかった。はるか南にひらけた空に低く夏の雲がわきあがっていた。高校最後の夏になった。かけがえのない時間がながれていくと、田所は思った。なにかあるたびに丘陵に来て、なにかを抱いて下っていった。丘陵はそんな場所だった。丘陵の下を街道が走り、西には広い林がひろがっていた。丘陵のいただきからは見えないが、遠く田所の家もその縁にあった。高校1年の秋から冬、彼は落葉の始まった林の中を歩きながら、自分の思いをまとめようとしていた。ときどきは本を手にしたままで歩いた。隣の緑陰市の図書館から借りてきた、岩波講座の桑原武夫が編集した「文学」という叢書の一冊であったり、人文書院の田中美知太郎の論考が入った「哲学」の叢書であったりした。
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