03 Daphne
03 沈丁花
春は沈丁花とともに訪れます。二月初旬のまだ寒さの強い日々に、沈丁花は風に負けない固いつぼみを膨らませ、やがて春を最初に告げる白い花を一斉に咲かせます。強い北風にも少しもひるむことなく、静かな午後には、居間からガラス戸を開いて外に出ようとするとき、かぐわしいかおりを部屋全体に満たすのです。こんなに人を励ましてくれる花はありません。冬を越えることはすべての生きものにとって、いつも厳しい選択を迫ります。おまえはまだ生きようとするのかと。この寒さを乗り越えていく力をおまえはまだ持っているかと。
そうすると人を含めたすべての生き物が一瞬たじろぎ、自らのエネルギーがもう底をつきそうなことに気づくのです。そのとき窓の外の冷たい風の中に白く咲く、沈丁花の花を見つけてほっとします。もう大丈夫、春はそこまで来ているのだから。強い風も強い寒さももうまもなく消えて行くでしょう。うすぐらいどんよりとした午後の中にそこだけがまるで一条の希望のように輝いています。泰西の詩人はかつて歌いました、希望はいつも厩のわらのひとすじのように輝くのだと。
こんなに弱ったあなたももう大丈夫です。花のかおりに包まれているならば。明日はきっと、かすかな柔らかいひざしが窓辺に一瞬訪れるでしょうから。そんなふうに沈丁花の白い花が、今日も伝えているのです。
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